「Get Your Time」





 さて、君は覚えているかな? 副長を務める山南敬助だ。
 気軽に「サンナン」と読んでくれたまえ。
 しかし久しぶりに陽の光を見たような気がするよ……
 ふっ、所詮男キャラなんてこんなものなのだろうね……

「あれ? 山南さん、ご無沙汰してます。沖田さんとお掃除ですか?」

 おや、斎藤くんか……。
 そうだね、今日は天気が良いから。

「そうですか、ご苦労様です。僕はこれから島田と巡回に行ってきますので♪」

 はっはっは、随分嬉しそうだねぇ。

「えっ!? そ、そんなことないですよぅ」

 ま、気を付けて行ってきたまえ。
 京の町もいろいろ物騒だからね。

「はいっ、行って参ります!」

 ふっ、背中が眩しいなぁ……(遠い目)



「ねぇ、山南さん、早くお掃除片付けましょうよ」

 おっと、そうだったね。
 脇役は脇役らしく舞台の清掃に精を出すとするかね。



 と、その頃。

「ふっふっふ、ついにこの日が来たのよ!」

 いつもの巫女さんルックとは微妙に違い、いかにも動きやすそうな格好のおまちちゃんがいた。
 日の丸も鮮やかなハチマキをきちっと締め、瞳はなにかに激しく燃えていた。

「まっててMyダーリン!今からこのおまちがっ!女豹共の巣窟から救い出してあげます!!」

 そう力こぶも勇ましく呟くと、目の前の塀をよじ登り始めた。
 道行く人々は訝しがるも、その異様な雰囲気に見なかったことにして通り過ぎていった。



「はっ!?」

 鈴音がその気配に気付いたのは、なにも剣士故の第六感のおかげとかいうワケでもない。
 すぐ背後の壁から「あいたっ」とか「ぬぁっ」とか「きーーーっ」かとかいう奇怪な声が聞こえたら、そりゃ誰だって身構えるだろう。
 振り向いてみると果たしてそこには……

「……さて、おそうじ、おそうじっと」
「って無視するんじゃないわよっ!」

 ぜはー、ぜはーと乱れた呼吸もそのままに、せっかくの鉢巻もズレ気味におまちちゃんが塀の上に仁王立ちしていた。
 そこへゴミを捨てに行っていた山南が帰ってきた。

「おや、そーじ、どうかしたのかい?」
「いえ、猫がいたような気がしただけです」
「そうか、まぁほどほどにな」
「わかってますよ」

 気持ちの良いほど陽気な京の空に昼下がりの太陽が輝き、今日の平和を祝っているかのようだ。
 清掃された庭先もそれに応えて白く美しい。

「喉が渇いたね。母屋に行こうか」
「そうですね」

 さわやかに微笑みあうと、そろって縁側へと足を向け、歩き始めた。
 そこへ一筋の涼風が労働の汗をぬぐってゆく。

「ぐすん……村八分されたぁ……」

 元々部外者なことは棚に上げて嘆くのも束の間。
 (はた迷惑なまでの)立ち直りの早さも強い武器。
 恋する乙女に悩んでいる暇なんかないの!

「だったらもうコレ使っちゃうんだからね!」

 背中の風呂敷からなにやら取り出すと、

「その辺歩いていた、夏なのに厚着してる変なオジさん(自称:ラブなんたら〜)から受け継いだ(強奪したとも言う)この!秘密兵器に恐れおののけーーーー!!」

 がちゃこん、とマガジンをセットし、構えるその手に握られるのは、他でもないアレだった。
 ソレを口元に近づけ、すーっと息を吸い込むと、一気に叫んだ。

『あなたのハートをイーグルキャッチ!お出でませ、愛しのあなたーーーーーーーーー!!』
「んぁ?」

 声に引きずられるかのように、最愛の人、誰とは言わずもがなの島田くんが通りかかった。
 その視界にメガホン構えた例の少女を認め、視線が交差したその瞬間。

「きゃ〜ん☆し・ま・だ・さーーーーーーん!おまち、逢いたかったですぅぅぅぅぅ!!!」

 雄叫びと共に塀の上から飛び降りた。
 その足が地面に着いた瞬間。

 ぶぃ〜ん、ぶぃ〜ん、ぶぃ〜ん、ぶぃ〜ん

「ふ、我が新撰組の本拠地に殴り込みとは、その心意気だけは買ってやろう」

 想い人に駆け寄ろうとしていたおまちの眼前に、いつの間にやら戦闘服に身を固めた鬼副長こと土方が警報音をBGMに立ちふさがっていた。

「げげっ!?いきなりラスボス!?」

 赤色灯が点滅する中、獲物を狙う猛禽類のような土方を前にさすがのおまちも一瞬たじろいだ。
 しかし恋は盲目、愛は無敵。
 すぐさま気持ちを引き締め直す。

「フンだ!今日の私はひと味違うんだから!」

 手にしたアレを惜しみなく放り捨て、風呂敷を広げた。

「見敵撃砕!回転削岩機の威力を見よ!!」

 ぎゅいんぎゅいんと轟音をがなり立てるのは、右手に装着されたドリルアーム。
 重心を落とし、土方と対峙するおまち。
 ピンと空気が張りつめた。

「参る!」
「せゃぁっ!!」

 日本刀とドリル。
 この異様な邂逅の行方は、果たして?

「背後取ったわ!」

 激突の刹那。
 両者の衝突を寸止めしたのは原田の声だった。

「退路を断ち、包囲殲滅すべし!兵法の基本よ!さぁ、覚悟なさい!」
「前門の虎、後門の狼、か……でも、おまち負けないモン!!」

「敵の包囲の中でその心意気や良しっ!!」

 ずしゃっと鉄下駄が地面を押し下げる音と共に張りのある声が左手より。

「アタイの相手に不足なし!相手するぜ!」
「じゃぁ右手は私が……」

 張り切る永倉の反対側で、さっきまで無視してたくせに、ちゃっかり四方の残りを固める沖田。

「うぎゅぅ……おまち、くじけそう……」

 噂にも(悪評とかも含めて)名高い新撰組幹部に囲まれては、生きた心地もしないだろう。
 それでもおまちには視界の中にあの人の姿ある限り、撤退などするつもりは毛ほども無かった。

「もう!やってやるわよ!四人まとめてかかってらっしゃい!」
「そうか、ではお言葉に甘えるとしよう。突撃準備!」
「え!? うそ!? マジ?マジ? ちょっと待ってよ! きゃー!」

「往生際悪いぞ〜、覚悟決めろ」

 巨大ハンマーを担ぎ直す。

「最大戦力を集中運用。さすがね、トシさん」

 突先を目標に定める。

「……運が悪かったと諦めてください。どうせいつか人は死ぬんですから」

 中段に構える。

「辞世の句はあの世で詠め!吶喊!!」

 号令一下、四つの得物がおまち目掛けて襲いかかる。
 その刹那。

「ちょっとタンマ!そこまでっ!」

 覚悟を決め、目をつぶったおまちに誰かが覆い被さるように割って入ってきた。

「痛ってーーーーーーっ!!」

 わざとらしく見えなくもないが、寸止めならず、わずかばかり切っ先が島田の腕を切り裂いた。

「……何の真似だ?島田」
「副長、そんなマジにならなくたっていいじゃないですか」
「侵入者は撃退する。当然だろう?」
「あぁもう!ほら、新も沙乃もそーじも得物をしまえ!」
「ちぇ、つまんないの〜」
「ほんとに切るわけないでしょ、まったく」
「……切っちゃっても良いと思いますけど」

 ぶつぶついいながらも三人は矛を収めた。

「ほら、副長も収めてくださいよ。手が離せないんですから」
「ちっ……」

 いまいましげながらも鞘に収める。

「さて……」

 腕の中に庇う少女に向き直る。

「う…うぐっ……えぅ……じまだざぁん……」
「おまちちゃん……」
「わ…私は……ただ島田…さんにぃ……逢いたかっただけなのぉ………うわぁぁぁん!」

 そのまま島田の胸に飛び込む。
 仕方なしに受け止め、肩を抱いてあげた。

「気持ちは嬉しいけど、他にも方法はあっただろう?」
「うぅ……だって……」
「だってじゃないだろ?」
「……ひぐ……ごめんなざい……」

 島田の胸に顔を埋めたまま、しおらしく非を詫びる。
 そんなおまちの頭をぽんぽんと撫で、

「さ、今日のところはお帰り」
「……はい」
「その前に……ほら」

 引き離し、みんなの方に向き直させる。

「どうも……お騒がせしました……」
「はっはっは、今度来るときはもっとウデを上げて来いよー?」
「アラタっ!もう、どうでもいいけど余計な騒ぎはもう御免よ?」
「……今度来たら切っちゃいますから」

 一人一人に頭を下げる。
 そして最後に副長。

「まったく、毎度毎度懲りないものだな」

 むしろ呆れ顔で溜息をつく。

「もういいからさっさと送ってこい」
「はい。さ、おまちちゃん、行こうか」
「……はい」



 しゅんと肩を落としたおまちの手を引き、島田は屯所を後にした。
 しかしうなだれるおまちの顔に勝利の笑みが浮いていることは、誰も知るよしがなかった。
 そして島田はその後、夜も暮れるまで屯所に帰ることが出来なかったとさ。






 おや、もうおわりかい?
 僕の出番は……?
 ……そうか、いやいや、なんでもないよ。
 うん、なんでも、ね……(遠い目)






<了>



あとがき:

勢い重視のSS。
これも投稿したモノです。

僕はおまちちゃんはけっこう好きなんですよ。
可愛い系のキャラではないけど、そして僕の(書くのに)苦手なタイプではあるけれど、頑張って書いていきたいですね。

ちなみに作中でおまちちゃんが使っていた「アレ」とは、『ラブねご』のアレです(笑


感想は、椎名ひなた様まで〜。

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